逆流性食道炎がよく分かる疾患ガイドページ
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで起こる炎症を伴う病態です。この病気は、胸焼けや喉の不快感といった症状を引き起こし、放置すると食道の損傷や食道がんのリスクを高める可能性があります。原因には、食生活の乱れ、過体重、ストレス、あるいは食道と胃の境界にある筋肉の機能不全などがあります。治療には生活習慣の改善や薬物療法が有効で、適切な対応により症状の管理と改善が見込めます。
このガイドでは、逆流性食道炎の基礎知識、原因と症状、そして患者が取り組むべき治療法と予防策について詳しく説明し、健康な食道を維持するための支援を目指します。
逆流性食道炎とは?
逆流性食道炎は、胃の内容物が逆流して食道の内壁を刺激し、炎症や痛みを引き起こす病気です。胸焼けや胸の不快感、喉の痛み、食べ物を飲み込む際の困難感など、さまざまな症状が現れることがあります。主な原因は、食道と胃の間を閉じる筋肉の機能低下ですが、肥満、妊娠、喫煙、一部の食品や飲料の摂取がリスクを高めます。
日本では、近年、逆流性食道炎の患者が増加していると言われています。研究によれば日本では成人の20%は何らかの逆流性食道炎の症状を経験していると報告されています[1]。これには、食生活の欧米化や生活習慣の変化、社会的ストレスの増加が影響していると考えられます。肥満率の上昇も、逆流性食道炎のリスクを高める一因です。定期的な健康診断での早期発見や、食生活の見直し、適度な運動による体重管理が重要です。
治療には、生活習慣の改善が基本とされ、食後すぐに横にならない、食事の量を減らして複数回に分ける、刺激物の摂取を控えるなどの指導があります。また、必要に応じて薬物療法が行われ、症状の軽減を図ります。逆流性食道炎は、適切な管理と治療により、多くの場合、生活の質を向上させることが可能です。
胸やけや咳などの不快な症状でQOLが低下
逆流性食道炎の代表的な症状は、胃酸が食道を傷つけて起こる胸やけや咳です。胸やけや咳が頻繁に出ると、食事や睡眠に影響が出て生活の質(QOL)が低下する原因となります。食事が楽しめなかったり、ちゃんと眠れなくなるなど日常生活に悪影響をもたらします。
長期間にわたって逆流性食道炎の状態が続くと、他の疾患を招くおそれがあります。食道が胃酸によるダメージを受け続けると、食道の潰瘍や食道狭窄、バレット食道につながりかねません。特にバレット食道になると、食道がんのリスクが高くなるので要注意です。
主な症状は食道が傷つけられることで生じる胸やけ・咳
逆流性食道炎の代表的な自覚症状は以下のとおりです。
- 胸やけ
- 呑酸
- 喉の痛み
- 口内炎
- 咳、喘息
逆流性食道炎の症状として、胸やけや胸の痛みが生じます。みぞおちから胸の下あたりにかけて焼けるような感じがします。特に食後や前かがみの体制になった際には、胃液が逆流して胸やけが起こりやすくなります。
呑酸は胃液が口の中に上がってきて、すっぱい感じがする症状です。げっぷも出やすくなります。また胃液が逆流して食道に炎症がおきると、喉に痛みを感じることがあります。喉や口内の炎症がひどくなると、口内炎ができたり、食べ物を飲みこみづらくなってQOLが低下します。
咳や喘息の症状は、喉や気管支を胃液が刺激することで起こります。食道から刺激が伝わることで、咳が出やすくなる場合もあります。
その他には、喉や胸の違和感や不快感が出ることもあります。また、胃もたれやお腹が張るなどの症状もみられます。疑わしい症状が見られる場合には、早急に医療機関を受診してください。逆流性食道炎の重症化を防ぐためには、早期治療が重要です。
生活習慣やストレスなどが原因で胃酸が逆流
胃の内側は、胃酸の強い酸性に負けないように粘膜で守られています。しかし、食道の内側は胃の中のように粘膜で守られていないので、胃酸が逆流した際にただれて炎症を起こしてしまいます。
胃と食道のつなぎ目は、下部食道括約筋という筋肉によって閉ざされていて胃液が逆流しないようになっています。通常、下部食道括約筋は食べ物や飲み物が通る際にのみ開きます。なんらかの原因で下部食道括約筋の締りが悪くなると、胃液が逆流するようになります。また胃に圧がかかったり、胃酸が増え過ぎることも、逆流性食道炎を起こす原因になります。
加齢や生活習慣などが原因で下部食道括約筋が衰える
下部食道括約筋は、歳と共に衰えていきます。逆流性食道炎のリスクは加齢に伴って増していくといえますが、若ければ安心というわけではありません。生活習慣によっては、若くても下部食道括約筋が弱まることもあります。
喫煙や体の右側を下にして寝る生活習慣は、下部食道括約筋の締りを悪くします。食事では、アルコールや脂肪の多い食事、チョコレート、炭酸飲料などが胃液を逆流させやすくします。
また食道裂孔ヘルニアという疾患は、下部食道括約筋の締りを悪くします。食道に入った胃液が排出されづらくなりますので、胸やけなどの症状を起こしやすくする原因となります。
胃酸の過剰分泌や腹圧で逆流しやすくなる
ストレスに伴う自律神経の乱れは、胃酸の過剰分泌を招きます。また脂肪分の多い食事が増えると、胃酸が多く分泌されるようになります。日本では食生活の欧米化が進んでいることから、逆流性食道炎になる方が増加傾向にあります。
衛生環境の改善によってピロリ菌の感染率が低下したことも、逆流性食道炎の増加の一因と考えられています。ピロリ菌に感染していない胃は元気に活動するため、胃酸の分泌が増えるためです。
お腹に圧力がかかると胃酸が逆流しやすくなります。下部食道括約筋が衰えていない人でも、妊娠、肥満、便秘などは胃に腹圧をかけて逆流性食道炎を誘発します。前かがみの体勢になっても胃酸が逆流しやすくなります。
逆流性食道炎の治療は薬物療法が中心
- 逆流性食道炎の治療に有効な成分
- エソメプラゾール
胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬です。エソメプラゾールと結合したプロトンポンプは胃酸を分泌できなくなります。新しいプロトンポンプが生成されると胃液の酸性が元に戻ります。
- 逆流性食道炎が配合されている商品
- ネキシウム
有効成分エソメプラゾールを含有している胃腸薬です。胃酸過多が原因で起こる逆流性食道炎や胃潰瘍などの疾患の治療に第一選択されています。
逆流性食道炎は、薬物療法を中心に生活習慣の改善や外科的治療などの治療法が確立しています。有効性の高い医薬品が開発されており、適切な治療薬を選択することで症状を抑えることが可能です。
症状に合わせた薬選びが大切
逆流性食道炎の治療薬にはさまざまな種類があります。薬によって作用する部位が異なるので、症状に合わせた薬選びが大切です。逆流性食道炎の治療に使われる薬としては、以下が挙げられます。
- 胃酸分泌抑制薬(ネキシウムなど)
- 粘膜保護薬
- 消化管運動機能改善薬
- 制酸薬
ネキシウムなどの胃酸分泌抑制薬は、げっぷ、胃痛、胸やけ、胃もたれなどに効きます。症状を改善するだけでなく、食道の炎症を抑えるのにも有効です。症状によっては胃酸分泌抑制薬と他の種類の胃腸薬が併用されることもあります。
食道の粘膜を保護する粘膜保護薬は、げっぷ、胃痛、胸やけなどの症状に効果があります。食道の粘膜を保護して逆流した胃酸からダメージを受けないように守ります。
食道の運動機能を促進する薬は、胃もたれ、腹部膨満感、食欲不振を改善します。食道の運動機能を改善させることで、食道に逆流した胃液を胃に戻す力が強まります。
胃酸を中和する制酸薬は、げっぷ、胃痛、胸やけなどに有効です。逆流した胃酸を中和して食道が傷つきづらくします。
重症化すると手術が必要になることもある
逆流性食道炎の治療薬が効かなかったり、食道炎が重症化すると外科的治療を行います。外科的治療では手術で胃酸の逆流を防ぎます。手術が成功すれば、少量もしくは薬を飲まずに逆流性食道炎をコントロールできるようになります。
逆流性食道炎の外科的治療は、薬物療法などの内科的治療が十分に行われた後で実施するか検討します。あくまで主軸となる治療方法は、薬物療法と生活習慣の改善です。
予防には胃酸を逆流させないようにする生活習慣が大切
食事や姿勢などの生活習慣を見直すことで、逆流性食道炎は予防できます。逆流性食道炎は再発しやすい疾患です。胃に負担をかけている生活習慣を見直すことで、胃酸の逆流を防ぎ、逆流性食道炎の再発を予防できます。逆流性食道炎の予防に効果的な生活習慣として、以下が挙げられます。
- 脂っこい食事や刺激の強い食事は控える
- アルコールや炭酸飲料を控える
- 食後2~3時間は横たわらない
- 長時間の前かがみ姿勢を取らない
- お腹を締め付ける服装やベルトをしない
- 身体の左側を下にして上半身を高くして寝る
- 腹筋や横隔膜を鍛える
これらの生活習慣以外にも、ストレスや疲労を貯めないことも逆流性食道炎を改善するうえで大切です。日頃から十分なストレスケアと休息を取るよう心がけましょう。