肥満症がよくわかる疾患ガイドページ
肥満症は、過剰な体脂肪が健康に様々な悪影響を及ぼす状態を指します。この疾患は世界的に増加傾向にあり、生活習慣の変化が大きな原因とされています。肥満は単なる体重の問題ではなく、心臓病や糖尿病などの重大な健康問題を引き起こすリスクファクターです。
このガイドでは、肥満症の原因、認識される症状、有効な治療法、そして肥満を予防するための実践的な方法について概説し、健康への第一歩となる情報を提供します。読者が自身の健康状態を見直し、必要に応じて生活習慣の改善を図れるよう支援することを目的としています。
肥満症(ひまんしょう)とは?
肥満症とは、体に必要以上の脂肪が蓄積してしまう状態のことを言います。体重が身長に対して多いだけでなく、特に体の中で脂肪が多くなることで、健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。人の体は食べたものをエネルギーに変えて動いていますが、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを食べ物から摂取してしまうと、余ったエネルギーが体内に脂肪として蓄えられます。これが続くと、肥満の状態になります。
肥満は見た目の問題だけではありません。心臓病や糖尿病、高血圧などのリスクを高めることが知られています。また、関節への負担が大きくなり、呼吸障害や睡眠時無呼吸症候群の原因にもなりえます。
肥満を防ぐには、バランスの良い食生活と定期的な運動が大切です。日々の食事で摂取するカロリーと、運動によって消費するカロリーのバランスを意識することが重要です。また、突然厳しいダイエットを始めるのではなく、長期間にわたって健康的な体重管理を心がけることが、肥満を防ぐ上で効果的です。もし肥満が気になる場合は、医師に相談し、適切なアドバイスを受けることがおすすめです。
診断基準はBMIと健康障害の有無
肥満症とは、肥満に関連して健康障害が合併、もしくは合併するリスクが高いと予想される状態を指します。
「肥満」と「肥満症」は違います。肥満は太っている状態を指す言葉ですが、肥満症は病気であることを意味します。肥満症と診断されれば、治療の対象となり、減量が必要となります。
肥満の度合いはBMI(Body Mass Index)という指標を用いて算出します。日本人の場合、BMIが25以上だと肥満に該当します。
- BMIの計算方法
- BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
- 例:身長170cmで体重65kgの場合、65÷1.7÷1.7=22.5
BMIが25以上かつ肥満に関連する健康障害があると肥満症です。肥満症診療ガイドライン2022には以下の11項目が、肥満に起因ないし関連する健康障害として挙げられています。[1]
- 耐糖能障害(2型糖尿病、耐糖能異常など)
- 脂質異常症
- 高血圧
- 高尿酸血症・痛風
- 冠動脈疾患
- 脳梗塞・一過性脳虚血発作
- 非アルコール性脂肪性肝疾患
- 月経異常・女性不妊
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群•肥満低換気症候群
- 運動器疾患(変形性関節症:膝関節・股関節・手指関節,変形性脊椎症)
- 肥満関連腎臓病
この他にも肥満に関連する疾患はありますが、肥満症の診断には含めません。
上記の健康障害がなかったとしても、内臓脂肪が蓄積しているタイプの肥満の場合は肥満症に該当します。腹部CT検査などで内臓脂肪の面積が100cm2以上の場合は、内臓脂肪型の肥満と判断されます。
肥満症の原因は食べ過ぎや運動不足だけではない
肥満症は多面的な要因によって引き起こされる病態です。単に食べ過ぎや運動不足だけが原因とは言い切れません。
日本肥満学会が発行しているガイドライン*1では、肥満および肥満症がおきる要因として以下の9つを挙げています。
- 1.食生活
- エネルギー摂取量の過多に伴い体重が増えやすくなる。また糖質の割合が多い or タンパク質の割合が低いなどの食事内容や、早食いなどの食事方法が肥満に関連することも報告されている。
- 2.飲酒
- 多量の飲酒はエネルギーの過剰摂取に直結する。実際に、1日に350mlの缶ビールを2つ以上飲んでいる場合は、非飲酒よりも体重増加リスクが高くなることが報告された(オッズ比:1.64)。
- 3.身体活動
- 食事で得たエネルギーは日々の身体活動によって消費される。運動量が少なければ、エネルギーを消費しきれずに脂肪として蓄えられる。1日の中で座っている時間が長いなど運動不足が続くことで徐々に肥満になっていく。
- 4.睡眠
- 短時間の睡眠は体重増加に関連する。睡眠不足による空腹感の増強は、摂取カロリーを増加させる。また、体温調節の変化や疲労感増加が消費エネルギーを抑制する。反対に、睡眠時間が9時間以上の場合でも体重が増加しやすいという報告もされている。
- 5.喫煙と禁煙
- 重度の喫煙者は、非喫煙者と比較して肥満度やウエスト周囲長が大きい傾向がある。喫煙本数が多い、禁煙補助薬を使用していない、あまり運動していない、喫煙機関が長いなどの特徴があると禁煙後に体重が増えやすい。
- 6.心理社会的・社会経済的要因
- 心理的特性(ストレス・不安など)や社会経済的特性(居住地域など)が肥満を促すことがある。心理社会的・社会的要因は、食事や身体活動などの生活習慣に影響し体重を増加させる。
- 7.職業要因
- 労働時間の長さは、体重やウエスト・ヒップ比の増加に関係している。時間外労働が長くなることで、夕食を摂る時間が遅くなることが影響している。日勤と夜勤では、1日の摂取カロリーに差はないものの、深夜勤務した後では脂質やアルコールを多く摂取しがちになり、消費カロリーも少なくなる。
- 8.性ホルモン、年齢
- 加齢に伴い性ホルモン(アンドロゲンやエストロゲン)が減少することで体脂肪が増加する。肥満の割合は、男女ともに30〜39歳で急増し、40歳以上になっても増加傾向にある。加えて、女性は性ホルモンの大きく変動する妊娠や閉経を機に太りやすくなる。
- 9.胎児期および出生後の栄養状態
- 妊娠中に過剰な体重増加や喫煙習慣があると、出生児が肥満になりやすくなる。出生後は、人工乳のみの栄養補給や生後6ヶ月~1歳半までの体重増加が、その後の小児期の肥満リスクに影響している。
このように、肥満症の原因には様々な要因が関わっています。食事や運動に気を付けていても体重が増える場合、喫煙、飲酒、睡眠不足といった生活習慣を見直してみましょう。
現代においては、肥満は個人の問題だけではありません。社会や職場の環境、遺伝的な要因など、個人の努力だけでは解決できない要素も肥満に影響を与えます。
太りやすさには遺伝が影響することも
人によって体重が増加しやすいかどうかには、遺伝的な差異が存在します。
近年の研究*2では、肥満に関連する多数の遺伝子が特定されています。これらの遺伝子は食欲、代謝速度、脂肪の蓄積方法など、体重に影響を及ぼすさまざまな生理機能に関与しています。
例えば、ある人は遺伝的に代謝が活発で、多くの食事をしても体重が増えにくいかもしれません。一方で、他の人は少しの食事で体重が増えやすい体質を遺伝によって受け継いでいる場合があります。
このような遺伝的な差異によって「太りやすい人」「太りにくい人」といった違いが生じるのです。
ただし、遺伝だけが肥満の全てを決定するわけではありません。生活習慣や環境も肥満に大きな影響を与えるため、健康的な食事や適度な運動を心掛けることは、遺伝的な傾向に関わらず重要です。
- 参考文献
- ※1:肥満症診療ガイドライン2022 第4章
- ※2:Loos, R. J. F., & Yeo, G. S. H. (2022). The genetics of obesity: from discovery to biology. Nature Reviews Genetics, 23(2), 120-133.
基本の治療法は食事と運動の改善
肥満症では、以下のような治療法によって減量を目指します。
肥満症の治療は、生活習慣の改善が基本となります。食事療法や運動療法、行動療法を単独あるいは組み合わせて行います。必要に応じて薬物治療や外科手術も検討されますが、いずれの場合も生活習慣の改善は不可欠です。
どの治療法も継続することが重要です。自分に合った方法を見つけ、長期的な視点で取り組むことが肝心です。
食事療法
食事療法では、バランス良く食べることが重要です。1日3回の食事を規則正しく、栄養バランスを考慮した適切なカロリーを摂取します。糖質の摂取を控えめにし、主食の量を適度にすることが重要です。また、ゆっくり噛んで食べることで、満腹感を得やすくし、過食を防ぎます。
運動療法
運動療法は食事療法と並んで重要な治療法です。有酸素運動を中心に、筋肉量を維持・増強し、代謝を活性化させることが目的です。ウォーキングやジョギング、ラジオ体操など、継続しやすい運動を選び、日常生活に取り入れることが大切です。
運動療法は、肥満の予防には効果的ですが、減量にはあまり有用ではありません。肥満予防には、週150~250分(1200~2000kcal)の運動が、減量のためには週300分以上の運動が必要とされています。
行動療法(認知行動療法)
行動療法は、食事や運動の習慣を継続するために、日常生活の中での行動変容を促します。グラフ化体重日記や生活日記をつけることで自己管理を促し、食行動の見直しを行います。
スマートフォンやタブレットを利用して、食事内容や体重の管理を行えば、継続率が高くなります。少なくとも6ヶ月程度の短期的な減量には著しい減量効果が認められています。
外科手術
重度の肥満で他の治療法で効果が得られない場合には、外科手術が選択肢に入ります。減量効果と代謝改善効果に優れており、体重や血糖値のコントロールが不良の場合に有効です。
肥満症の外科手術には、胃バイパス手術や胃バンド手術などがあります。これらの手術によって、胃を小さくして食事量を制限したり、消化管の消化吸収を抑制することができます。
薬物療法
薬物治療は、生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合に検討されます。医師の指導のもと、肥満治療薬を用いて体重管理を行います。
肥満症の治療薬には、食欲を抑えるものやエネルギー代謝を促進するもの、エネルギー吸収を抑えるもの、エネルギーの利用効率を低下させるものなどがあります。また、糖尿病のある人しか使えない薬と糖尿病でなくても使える薬があります。
日本で肥満への適応が承認されている薬
肥満治療のための薬物療法では、体重を減らす効果がある医薬品が使用されます。糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は、体重減少にも効果があることがわかっています。ただし、これらの薬の多くは、糖尿病を伴わない肥満症の場合には保険適用外です。
日本で肥満への適応が認められている薬には以下のようなものがあります。
マジンドールは、糖尿病の有無にかかわらず、肥満症に対して保険が適用されます。セマグルチドは、最近になって肥満症が適応となったGLP-1受容体作動薬です。
市販薬としては、オーリスタットが肥満予防に効果が期待できます。
マジンドール
マジンドールは、食欲を抑制しエネルギー消費を促進することで、体重減少をサポートする薬剤です。日本ではサノレックスという医薬品に含まれています。
この薬は通常、肥満度が+70%以上またはBMIが35以上の高度肥満症の治療に使用されます。食事療法や運動療法と併せて使用することで、7.4kgの減量効果が報告されています。
服用期間は最長で3ヶ月です。1ヶ月間服用しても効果が見られない場合は、服薬を中止することが推奨されます。
セマグルチド
セマグルチドは、内服薬と注射剤の2つの剤型が存在します。もともと2型糖尿病治療薬として使用されていましたが、2023年に肥満症治療薬ウゴービとしても認可されました。
セマグルチドは、胃腸の動きや満腹感を制御することで体重減少を促す効果があるとされています。
臨床試験によると、週に1回2.4mgの注射を68週間続けた結果、体重が平均13.2%減少したことが報告されています。一方、内服薬では、セマグルチド14mgを用いた場合、プラセボと比較して2.3kgの体重減少が確認されました。
オーリスタット(オルリスタット)
オーリスタットは、2023年2月に承認された抗肥満薬です。食べ物に含まれる脂肪の吸収を抑制して、便と一緒に排出する作用があります。
オーリスタットを生活習慣の改善と併用することで、腹囲や内臓脂肪断面積の減少が期待できます。臨床試験では、服用開始から24週目で腹囲に-2.49cm、内臓脂肪断面積に-14.10%の変化がありました。
オーリスタットは、日本ではアライという名前で市販されています。要指導医薬品なので薬剤師がいる薬局やドラッグストアでのみ購入できます。購入には1ヶ月前からの生活習慣や腹囲・体重の記録が必要です。
- 参考文献
- [1]肥満症診療ガイドライン2022 第1章
肥満症予防のための生活習慣ガイド
肥満症は、日常生活での健康意識を高めることで、未然に防ぐことが可能です。ここでは、肥満症の予防に焦点を当てて、誰もが実践できる簡単な方法をご紹介します。
健康的な食事習慣の確立
- 野菜と果物を豊富に:毎日の食事に野菜と果物を多く取り入れ、食物繊維を豊富に摂ることで、満腹感を得やすくなります。
- バランスの取れた食事:炭水化物、たんぱく質、脂質をバランス良く摂取し、特に全粒穀物や良質なたんぱく質を選びましょう。
- 砂糖と塩分を控えめに:加工食品や外食に含まれる砂糖や塩分の摂取を控え、自然な味わいを楽しむことが大切です。
定期的な運動
- 日常生活に運動を取り入れる:歩く、階段を利用する、自転車を利用するなど、日常生活で体を動かす機会を増やしましょう。
- 週に数回の適度な運動:週に2~3回、30分以上の運動を心がけることが理想的です。ジョギング、水泳、サイクリングなど、楽しめる運動を見つけましょう。
良質な睡眠
- 規則正しい睡眠:毎日同じ時間に就寝・起床する習慣をつけることで、体内時計を整え、睡眠の質を向上させます。
ストレス管理
- リラクゼーション:瞑想、ヨガ、深呼吸など、ストレスを軽減する方法を見つけ、定期的に実践しましょう。
- 趣味を持つ:趣味や好きなことに時間を費やすことで、精神的な満足感を得ることができます。
定期的な健康診断
- 健康状態のチェック:定期的に医療機関で血圧や血糖値などの健康診断を受けることで、自身の健康状態を知り、必要な対策を講じることができます。
肥満症の予防は、単に体重を減らすことだけではなく、全体的な健康と幸福を目指すプロセスです。バランスの取れた食事、定期的な運動、十分な睡眠、効果的なストレス管理を通じて、長期的な健康を守りましょう。